開業奮闘日誌

(31) 新入社員へ逆戻り

 今回いただいた案件のなかに、マンションの売却がある。 不動産の仲介業はまず、売買と賃貸の大きく二つに分かれる。 もちろん、売買は所有権の移動があったり、比較的金額も大きくなることから調べることや責任が大きく賃貸に比べて難しいのが一般的だ。 その売買の中でも物件の売主を仲介する元付けと買い手を仲介する客付けの二つがあるが、物件そのものの調査をしなければならない元付けの方が業務が複雑と言われている。 つまり、今回初めての案件にも関わらず、最も難易度の高いパターンから始めることになった。 当初思っていたのは、しばらくは買う側、借りる側の客付け業者として経験を積んで、徐々に売る側、貸す側の元付け業者をやると思っていたが、幸か不幸かそうはならなかった。 一瞬はご遠慮しようかとも思ったが、いずれは通る道、オーナー様の「やってみれば」との温かいお言葉もあって、引き受けることにした。 

 元付け業者の最初のタスクが媒介契約書をオーナーと交わすことだ。売買の仲介の場合は不動産業者とオーナーとの間で媒介契約を結ぶのが決まりだ。 もちろん、経験者であれば1時間もあればできてしまうものなのだろうが、とにかくこんなことでも初めてなので、わからないことだらけ。 物件の情報を得るために謄本を取るのに1日、書き方をいろいろなところを調べたり聞いたりして、1日。 そして、3日目にようやっと書き上げることができた。 そして、オーナー様にチェックしていただくが、その時に無茶苦茶な間違いに気づく。 なんと、私の報酬額が物件価格と同額になっているではないか。 つまり、売却して入ったお金の全額が私の懐に入ることになるわけだ。 もちろん、業法違反であるが、それ以前にこんな初歩的なことを間違えて、恥ずかしい限りで、オーナー様に平謝りし、書き直すことができた。 失敗を繰り返した、会社での新入社員時代をふと思い出した。