早期退職への道

(39) 早期退職制度の原因

先日早期退職制度が終了したとの記事を書いたが、そもそもなんで早期退職制度なるものがなぜ昨今はやっているのかを少し考察してみたい。 現在、早期退職制度の対象となっている人は50歳後半だと思うが、その人たちが新入社員で入ったのは、ちょうどバブル期真っ盛りのころということになる。 このころは、どこもかしこも好景気で人手がたらず、就職も選び放題で、企業もハワイにタダで連れて行って囲い込みをするくらい、大量に社員を雇っていた時代だ。 もちろん、好景気の時はそれでもよかったのですが、その後バブルが崩壊して景気が悪くなると、労働者がだぶつき始める。 そうなると、今度は新入社員の採用を抑えるので、バブル期との年齢構成が極端にいびつな形になってしまう。 バブル後はそれでもまだ、海外での生産量を増やしたり、国内においても付加価値を高めてなんとか成り立っていたのだが、昨今の少子高齢化が進み、製品そのもの販売量が下がり、拡大してきた、工場などのインフラや人員がだぶつき始める。 そこで、余剰の工場や設備を閉鎖し、生産量の適正化を進めるのだが、そうすればするほど、今度は人員のだぶつきが顕著になる。 しかし、設備とはちがって、簡単に切り捨てるわけにはいかないので、あくまでも、自主的に退社するということで、人員構成の適性化を図らなければならない。 これで生まれたのが早期退職制度であり、退職金を上乗せして、自主的な退職を促したのだ。

 また、これとは別の要因も考えられる。 もう一つの要因は株主の変化だ。 昔の日本企業はそれぞれの株を持ち合ったり、もしくは固定のファンともいえるような株主が株を持っていたため、ある程度健全な経営さえしていれば、文句を言う人も少なかった。 ところが、外資が入ってくると、いわゆる「もの言う株主」が増えてきて、日本の企業体質にあれこれ注文を付けるようになった。 もっと利益率を上げろとか、効率を高めろ、そして配当や自社株買いで株主に還元しろといいだす。 昨今目をつけられているのが、1を切るPBRの数値である。 PBRというのは1を下回ると、会社を整理して売れるものを売ってしまったほうが、株価の合計よりも高いことを意味する。 つまり、会社なんかつぶして、売却し、株主に分配したほうが、現在の株を売ることよりも大きくなるわけだから、株主にとっては問題だ。 日本の大企業はPBRが1倍割れをしている企業は少なくない。 それをなんとかしろと要求されるのだ。

 PBRを改善するためには、業績や将来価値をたかめて株価を押し上げるか、持っているものを減らすしかない。 企業は新価値創造、新事業創造と頑張っているが、なかなかGAFAMに代表されるような産業界を変革するような価値創造は、日本の企業はできない。 だから、だれでも確実にやれる、持っているものを減らす。 つまり、資産、設備の整理、売却や、人員の削減を推進することになる。 これを初期に日本で大規模に敢行したのが、日産のカルロスゴーンだ。 あの時見た光景が、日本全国で行われてるに過ぎない。 あの時、他人事と思った人が今、リストラの憂き目にあっているともいえる。 

 バブルのころから積み重なった、余剰の資産や設備や従業員を整理した後、世界的に競争力のある企業に育つかは、このコストカットによって決まることはない。 そもそもの、やるべき新価値・新事業創造がカギを握るは言うまでもない。 日本の経営者たちはそれができないことの責任をしっかり見つめなおす必要があると思っている。 何十年と事業形態が変わっていない経営者が居座っているようでは、将来も明るいとは言えない。