早期退職への道

(32) シニアの就活 最終回?

 内定通知書をいただいてから、オファー面談ということで、通知書の内容を人事の担当者から説明いただいた。 事前にいただいていた、通知書に書かれていることと大きな認識の違いや疑問点はなかったが、先方からは改めて、人材として必要とされていることを実感することになった。 やはり、55歳以上で、正社員としてのオファーを出したことはないそうで、そのこと一つとっても大変光栄なことだった。 すでに、この頃には親近感を超えて、信頼感まで生まれて気がしていた。 しかし、出した結論はオファーの辞退だった。

 今回は正直相当悩んだ。 やはり、必要としている人がいる以上できれば力になりたかったし、先方の面接官や人事担当者はとても人間的に魅力あふれる人で、内容というよりも一緒に仕事をしてみたいと思った。 ただ、こちらが契約社員でどうかという逆オファーも顧みず、正社員のオファーできたことはやはり、その事業が重要なものであり、責任が重く、正社員としてのコミットが必須だったとのことだ。 このことはとても光栄なことではあるが、こちらの心算も中途半端なものではいけないと思わざるを得ない。 不動産の開業に向けた副業も容認していただけるとのことだったが、このタスクを副業と両立する自信がなかった。 そうなると、少なくとも定年までの3年間はこの仕事に没頭することになり、開業は3年遅れることになる。 ここで思ったのが、そもそも、自分は死ぬまで働きたいという願望があるが故に、早期退職して、会社(他人)に頼らない生き方を早くスタートさせたかったわけだから、原点に矛盾するということだ。 ファイナンスプランで言えば、60歳まで働いて、それから引退した方が遥かに余裕で確実な将来像を描けたが、そこで得られる金銭的なメリットと、自分のやりたいことの天秤では、金銭的な問題はそれほど大きなものとは考えられなかった。 心苦しいというよりも、もうつながりがなくなって寂しい気持ちではあるが、決意を伝えることにした。

 当初の目論見は、この年で誰も雇ってくれないから、自分でやっていく覚悟を決めなければならないと思っていたが、そうではなくて、サラリーマンを継続できるという選択肢を与えられた上で、自営の道をいくのかという選択を迫られることになった。 神がいるならばこういう形での試練を与えることで決断を迫ったのではと思ってしまう。 とにかく、自分の覚悟を決めることになったのだが、本当に人生の先は読めない。 こういう就職活動でも出会いと別れがあることをこの年になって知った。