投資事初め

(7) 証券マンの実力

自分の持株で数少ないテンバガー銘柄にビックカメラがある。(テンバガー:株価が10倍まで値上がりした銘柄) これは、証券会社を退職して趣味で株をやっていた父が、ビックカメラは株主優待もいいし、割安だぞと呟いたその場で、買いを入れてほっておいたものだった。 毎年、一株2千円くらいの商品券を送られてくる優良な株で、ビックカメラで買うものに困らないわたしには本当に有益な株だった。 さすが、元プロの目利きは違うと思うかもしれないが、わたしは実はあまりその目利きを信用していたわけではない。

いわゆる証券会社や銀行なんかの金融機関の投資に関する情報量は、素人のそれとは全く違う者なので、素人が太刀打ちできないみたいな話をよく耳にする。 確かに、四六時中株のことを考えている人と、ちょっとした合間に株価を見ている人では、そのスキルに差があるのは間違いない。 ただ、その差は思ったほど大きくないと思っている。 もう少し正確にいうと、差が大きくないというよりも、プロと素人の差よりも、株の変動要因があまりにも大きすぎると言った方が正確かもしれない。 企業の財務状態、世の中のトレンド、大口の動きとかだけでなく、政治、環境、疫病など株に影響を及ぼす要因は枚挙にいとまがない。 これを読み切るには、さっきの四六時中ではまだまだ足りず、それこそ神の目、神の手が必要になるはずだ。 もし、そうでないのならば、証券会社の社員たちはみんな大金持ちになっているはずだ。 少なくともわたしの家はそうならなかった。 

世の中の8割のファンドは市場平均のインデックスに勝てないと言われているように、株という市場は本当に読みきれないものなのだろう。 だからと言って、割り切ってインデックス投資のみに専念するのかと言われると、なんか物足りない感じがする。 単純にリスクを取って、高いリターンを狙うというよりも、色々と勉強したのだから、何かやりたくなると言った方が正確かもしれない。 自分自身過去を振り返っても、儲けが出たもののほとんどは、平均的なものを買って、長期に渡ってほったらかしにしていたものだ。 いろんな手法を駆使して、短期で個別株で利益を出そうと思ったものはほとんどうまくいっていない。 買ったことを忘れるくらいがちょうど良いのだろう。 

最近、「ゼロで死ね」という本を読んだ。 簡単に言えば、死ぬ時までに財産を使い切れというものだのだが、すぐに分かる通り簡単ではない。 誰も自分が死ぬタイミングはわからないからだ。 晩年の父はある時から急に羽振りが悪くなった。 そして、亡くなった後の遺産整理で、あれだけ盛んにやっていた株式がほとんど価値のないものになっていて、残ったものは実家だけだったのを見て、先の証券会社の社員が必ずしも金銭的に成功しないと確信した。 しかし、ゼロで死ぬという、なかなかできないことをやり遂げたことは、素直に感心した。

写真:Alexas_FotosによるPixabayからの画像